2018/01/01

    美は完全な調和と細部に宿る 江戸切子「堀口切子のグラス」

    アトリエのような空間、堀口切子の工房

    三代 秀石 堀口徹さんの仕事場は、江戸川区船堀駅近くの町工場と新興住宅が混在するエリアにあります。江戸の下町風情も残るこの界隈は、昭和30~40年代には金魚の養殖でも知られています。
    訪ねた仕事場は町工場のそれではなく、むしろアトリエと言ったほうがふさわしい、静謐な世界。切子をカットする機械類も通常ブルーのところ、別注でホワイトにするなど、こだわって仕事場全体を白とシルバーでまとめてあります。 「レトロ&フューチャーというイメージでしょうか。クリエイションは仕事場作りにも反映されます」。 堀口さんは実家である「堀口硝子」に入社、江戸川区無形文化財二代目秀石(須田富雄)に師事して三代目を継承。「堀口切子」として独立し、2012年江戸切子の伝統工芸士となりました。

     

    ▲あらかじめ下絵を描いた線に合わせて、ダイアモンドホイールで研削していきます。
    緻密な技術を要する作業です。

    「切子というのは、ガラスの加工が主体です。もちろん元になる生地のグラスは自分でデザインして作ってもらい、それに加工を入れる。例えれば、漁師と寿司屋くらい違うものです」。

    切子の命はカットにあります。
    「研削する際にダイヤモンドホイールを使いますが、祖父や大叔父の代から受け継いだものもかなりあって、これは財産。種類があるということは、色々なテクニックが使えるということなんです。これらのホイールを駆使して、目指す形に仕上げます」。アトリエの棚にはそのダイヤモンドを使った砥石、ダイヤモンドホイールを納めた箱がうずたかく積まれています。

    昭和40年代には東京に約700人いた切子職人さんは、現在100人にまで減少。こういう状況の中で堀口さんは、新感覚の切子を作り出しています。

     

    ▲工房は白を基調にまとめています。グラスを入れる木箱は白くペイントし、羊のロゴマークを入れています。


    「使ってこそ生きる」三代 秀石の世界

    堀口さんの最初の師匠はおじいちゃんの一番弟子でした。「やさしくて何をやるにしても応援してくれた」。その一番弟子の師匠やおじいちゃんたちが活躍していたのは昭和30年代。戦後の復興期で、これから興隆してやるぞっという気概に満ちていた。羊を配した堀口切子のトレードマークは実家が創業当時から使っていたもの。羊は商売繁盛、吉祥の動物だったという。「自分の修業時代は、諸先輩たちに教わりました。聞けば教えてくれる、そういう土壌が江戸切子にはあるんですよ。大学を卒業してから10数年、こうしてやってこれたのは先達たちのおかげです」。

    ▲切子の命はカットの美しさ。堀口さんは非常に優れたテクニックで、完成度の高い切子のグラスを作り出します。


    最近、弟子をとって、教えることの難しさとやりがいを感じているといいます。
    「もともと器用か器用じゃないかも重要ですが、人より頭抜けるには、やはり通常よりたくさん仕事をしないといけないんです」。
    堀口さんは切子の技術を学び、自分のクリエイションを創り上げてきました。確かな技術の上に、類いまれな美意識が作り出す堀口切子の盃は惚れ惚れするほど美しい。作る上で心がけているのは、“やりすぎない”こと。
    「盃は使うもの。なるべく削ぎ落としてシンプルに仕上げ、お酒や料理が盛られた時にはじめて完成するのものだと……。余白を意識しながら作っています」。
    実際に「黒被万華様切立盃(くろぎせまんげようきったてはい)に酒を満たして上から見ると、今まで見えなかった複雑な模様がふわっと浮き上がってくる。まるで生きている有機体のようで思わず見入ってしまいます。
    “使ってこそ生きる”。そこに堀口さんはとことんこだわっています。


    ▲「黒被万華様切立盃」は、掌に収まるほどよいサイズ。マイ盃として愛用したい。


    お客様に教わった

    堀口さんが、“使ってこそ生きる”切子を作ろうと思うベースには、こういうエピソードがあります。
    「日頃、自分の作る切子を愛用してくださっているお客様が、ご自宅に招いてくださったんです。そのお客様は、若い頃から器が好きで好きで、余裕があれば器を求めるという方でした。そして、食卓には有名無名を問わず、趣味のよい器が載っていまして。それぞれの器に合った美味しい家庭料理が盛られていて、本当に豊かな食卓とは何か、を教えていただいた思いでした」。
    深夜近くに自宅へ戻った堀口さんは、それから奥様と、器の断捨離を行ったといいます。
    「本当に好きで、日々触れて使う器ですから。自分たちが豊かな気持ちになる器を身近に置いておきたいと思いました」
    それ以来、てらいのない、実用的かつ美しい切子作り一筋にやってきました。
    「盃の切り込みを指で持った時に、いい感じにはまるように切り込みし、口に当たるところはなめらかでほどよい薄さに。飲み手がいかに気分よく使えるかにとことんこだわり、それが伝わればいいなという思いですね」。
    こうして、職人でもあり、クリエイターでもある堀口さんは新しい江戸切子の世界を切り開いてきました。細部にこだわり、完全な調和を醸し出す堀口切子は、時代に対応した新・伝統の美といえます。

    ▲堀口切子の作品いろいろ。左は「籠目文切立盃」。古典的な文様が映える6色揃え。
    対する右の切立盃はまろやかなシェイプに古典からモダンまで、さまざまなカットで魅せ、
    同じグリーン1色でもその対比が鮮烈。


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    日用の美

    今回、取り上げるのは「黒被万華様切立盃」「薄瑠璃被菊花文ぐい呑(うするりぎせきっかもんぐいのみ)「よろけ縞」の江戸切子。「黒被万華様切立盃」は、堀口さんの創作のシグネチャー的な酒盃です。

    黒被のガラスを削るのは、模様が見えにくく高度のテクニックを要します。側面はシンプルに削ぎ落とします。しかし、真上からのぞくと、万華鏡のように複雑でデリケートな文様が見え、酒などの液体を注ぐと側面から、さらに新たな模様が浮き立つように現れてきます。切子には珍しいスタイリッシュなデザイン。「伝統は時代に寄り添って変えていくものでなければ」という思いが結実した逸品です。

    ▲「黒被万華様切立盃」は、お酒を入れるとまた違う模様が浮き立ってきます。
    透明な日本酒はもちろん、ウィスキーやリキュールなどを入れても似合います。


    「薄瑠璃被菊花文ぐい呑」は、少し小ぶりでころんとした丸い形。菊の花を模した文様を切り込みます。こちらもシンプルな彫りに落とし込んでいるが、女性的なたおやかさも漂います。緑、青、赤、紫、黄、若草と様々な色があるのも楽しい。とはいえカットにエッジが効いているのは、堀口さんの切子に共通するものです。

    こういう器を身近に使えたら、毎日の食卓が心楽しいものになりそうです。

     


    ▲「薄玻璃被菊花文ぐい呑み」はシャープな研削が切子の美しさを際立たせます。

    各色揃えて好みの色を選んでもらう酒宴も楽しい。


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