HOME > 漆芸家 小椋範彦 Vol.1 蒔絵の新しい地平へ

漆芸家 小椋範彦 Vol.1 蒔絵の新しい地平へ

 
小椋範彦
Norihiko Ogura
 

1958年岡山県生まれ。1983年東京藝術大学卒業制作サロン・ド・プランタン受賞。1985年~98年の間、重要無形文化財保持者、田口喜国のもとで制作助手を務める。2011年紫綬褒章受章。2012年第18回MOA岡田茂吉賞展MOA美術館賞受賞。他受賞作品多数。東京藝術大学美術学部工芸科漆芸教授、中国北京工業大学芸術設計学院客員教授、日本工芸会理事、日本文化財漆協会常任理事。現在も国内外の展覧会に作品を出品し、高い評価を得ている。

時空を超える漆、ジャパン

乾漆蒔絵合子「雨後」

日本を表すアルファベット、JAPANを小文字で綴ると、漆や漆芸を示す言葉になる。室町時代末期、ポルトガルからやってきた宣教師は蒔絵を施した漆器の美しさに心を奪われ、聖書をのせる書見台、キリストの像を収める厨子を誂える。さらに貿易商たちも華麗な漆芸に着目し、洋風の文様で調度品を次々に蒔絵師へ依頼。長崎からヨーロッパへ送られた漆芸の数々は王侯・貴族たちを虜にし、やがてジャパンと呼ばれるようになった。艶やかな漆の地に細かな金粉で文様を描く蒔絵。漆に金粉を蒔く蒔絵の技法は今から1200年以上前、奈良時代に始まったといわれ、平安時代になると上流階級の人々にとっては家柄や品性を表す調度品になっていく。

「源氏物語」東屋の巻には、娘の婚礼道具に「蒔絵螺鈿のこまやかなる心ばえまさりて見ゆるもの」をあつらえようとする浮舟の母の姿が描写されている。やがて時代は下り、金粉、銀粉を蒔くこと以外にもさまざまな技法が生まれ、蒔絵は漆の国、日本で独自に発展し、数多くの名品が生み出されていくことになる。

陰と陽、黒と金の絶妙な対比。華麗な美しさと出会い衝撃を受け、人生の進路を決めた若者がいた。漆芸家・小椋範彦である。彼はこう語る。「東京藝術大学を目指し、予備校に通っていたときのこと。ある展覧会で漆芸の大家・松田権六先生の作品を目にしました。吸い込まれるような黒の世界、初めて見る艶、すべてが想像を超えていて、どう作るのか全く分からない。その謎めいた美しさに強烈な魅力を感じました」。それまでは漠然と彫金を目指していたが、 たった一度の出会いで一人の若者の進むべき道は決まった。

さらに、小椋にとって幸いだったのは、入学した東京藝術大学の工芸科で教授を勤めていた蒔絵の重要無形文化財保持者(人間国宝)の田口善国氏に師事し、卒業後は氏が亡くなるまでの13年間助手を務めたことだ。田口善国は伝統的な漆芸技法を研究し、蒔絵、螺鈿の高度な技術を習得。そうした技術を日常生活で見掛ける草花や小動物を題材とする斬新な意匠、表現を試みて現代的な漆器の制作に取り組み、数多くの名作を残している。

現在、小椋もまた美術部工芸科の教授として漆芸研究室で学生たちの指導に当たっているが、田口善国に師事した13年はどんな経験を積み重ねる年月であったのか聞いてみた。「先生は何も言わない。ただ私の隣で作業をしている。私が絶対できない高度なことを始めたなと思ったら、そばに行って見ていました。指導は一切ない。でもなんとか学び、自分のものにするためにひたすら修練する。技術が積み重なっていき、ずいぶん手は慣れました」。師の下で習得した技術に加え、さらに研鑽した独自の技術。小椋は若い年代から才気溢れる漆芸家として数多くの賞を受賞し、やがて国内外にその名を知られるようになっていく。

金を蒔く、貝を割る 蒔絵の技法

金粉、銀粉を蒔く技法は奈良時代に始まり、平安時代末期には金粉、金粉の他に金に銀を割混ぜた「青金」という青みがかった金属粉も登場する。また、金粉自体も、金を鑢でおろしたままのゴツゴツした形の「鑢粉(やすりふん)」、さらに時代が下がると鑢粉を叩き付けて平たくした「平目粉」などが生まれる。また、室町時代になると、金粉や銀粉を蒔いた後に、器面全体に漆を塗りかぶせ、乾燥後に木炭で漆を研磨して下の蒔絵層を出す「研出蒔絵」、文様部分の漆を盛り上げて浮き彫り状に表現する「高蒔絵」、貝殻の真珠層を平らに加工し、文様の形に切って貼る「螺鈿」などさまざまな技法が生まれ、あらゆる技法を駆使してつくられた硯箱などの名品が誕生した。

小椋の代表作として知られる「乾漆割貝蒔絵百合花文飾箱」の技法について話を聞いた。「乾漆というのは麻布と漆で素地となる箱をつくる技法のことで、加飾したいところに漆を塗り、粉筒(ふんづつ)という道具で金粉を蒔きます。粉筒の片方はメッシュ状で手指を振動させて粉を落とせるような構造で、蒔く高さの位置で暈し具合の調整ができる構造。その後、余計な金粉を払い、漆が固まるのを待ち、小さな炭で先に蒔いた金粉を研ぎ出していきます。割貝というのは貝にあらかじめ割れ目を入れ、曲面になじませて貼る技法のこと。この作品の場合、0.1mm以下に削った白蝶貝を百合の花弁の形に切り、フィルムを貼って保護して割っています」。

小椋は淡々と複雑な工程を語るが、その難易度は話しを聞くだけでも伝わってくる。実際のところ、花弁の隙間を研ぐときの力加減、貝を割るときのタイミング、曲面を歪みなく貼る抑え方など極めて繊細な作業が続くという。蒔絵も割貝も伝統の技だが、完成度、効率などをさらに高めるために自分で研究し、工夫することで、小椋という一人の作家にしかできない独創の技になっていく。

匠の意を表す道具と、その未来

図案の描かれた和紙の裏から文様の輪郭線を色漆でなぞり、それを器面に転写する置目(おきめ)。金銀粉の粒子の粗密で遠近を表現する蒔暈し(まきぼかし)。蒔絵が完成するまでには幾度もの塗り込みと研ぎを繰り返す気の遠くなる工程と技法がある。新しく手に入れた漆の乾き方、研いだ後の煌めき、金粉の粒子の潰れ具合、貝殻の厚さ、光の反射など、小椋は常に試し、実験することを心がけているというが、そこで大事なのは作家の意を表現する筆、刷毛、研ぎ炭などの道具だ。

漆を塗る筆は絵画用の筆とは異なり粘性の高い漆液で描くので、腰が強くなければならない。クマネズミの毛は硬くて非常に使いやすいが、今は貴重品でなかなか入手できず、仮に手に入れることができたとしても、漆用の筆は試し描きができないので使えるかどうかわからない。螺鈿で使う貝殻も自然素材なので同じものは二つとなく、再び入手できるとは限らない。それ故、厚いものから極めて薄いものまで、形の大小も含めできるだけストックする。蒔絵を研ぐときに使う炭を焼く職人も少なくなっているという。

奈良、平安、室町、そして江戸時代と1200年の伝統と研ぎ澄まされてきた漆芸の文化、技法は、今、受け継ぐ職人の減少、自然環境や生活様式の変化など、これまでの時代にはなかった複雑な課題を抱えるようになってきた。しかし、小椋は言う。「まずは自分が制作すること、作品の力を信じてやっていけばいい」。その言葉には単なる楽観主義というのではなく、作家活動をしつつ、原材料、職人の現状調査にも力を注ぐ、小椋の漆芸の未来に対する決意表明が込められているように感じられた。

作品ご購入の流れ

①お問い合わせ

まずはお気軽にお問い合わせください。ご興味のある作家、ご希望の作品についてご連絡ください。サイト上に掲載されているもの以外にも様々な作品をご案内可能です。

②ご購入可能な作品のご案内

お問い合わせ内容をもとに、担当者よりご連絡させていただきます。細かいやりとりはお電話でもご対応させていただきます。

③お見積り・納期目安・購入規約書の確認

ご希望の作品のお見積り、納期目安、購入規約書をご連絡いたします。尚、納期につきましてはあくまでも目安となり、納品日を保証するものではございません。また送料に関しましては、全額負担になりますので、あらかじめご了承ください。

④ご注文の意思確認

お見積り、納期目安にご納得頂けましたら、購入規約書にサインをお願いいたします。

お問い合わせから意思確認までの流れ
{REPLACE}
⑤決済についてご案内

購入規約書にサインをいただき、ご注文の意思確認が取れましたら、決済についてご案内いたします。費用は全額前金にてお願いさせていただいております。

⑥ご注文確定

ご入金が確認できましたら、正式にご注文確定として在庫を確保させていただきます。

⑦お引き渡し

美術品として郵送、直接お伺いして手渡しの両方に対応しております。事前にご希望をお知らせください。送料や移動費等はお客様負担でお願いさせていただいております。

お支払いからお引渡しまでの流れ
{REPLACE}

よくあるご質問

お問い合わせについて

お問い合わせへのご返信
お問い合わせへのご返信は、通常2日~3日以内にお送りいたします。2日~3日経っても返信メールが届かない場合は、何らかの問題が発生している可能性が考えられますので、お手数ですが再度お問い合わせフォームよりご連絡ください。尚、土日祝日や年末年始などはご返信までにお時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。
お問い合わせの対応言語
お問い合わせの対応言語は日本語、英語のみとなります。
お電話でのお問い合わせ
お電話でのお問い合わせも受け付けておりますが、まずはお問い合わせフォームよりご連絡ください。

作品のご購入について

ご注文確定までの流れ
まずはお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。ご不明な点はこの段階でご質問いただき、担当者より在庫状況を含めて回答させていただきます。ご注文の意思確認が取れましたら、決済についてご案内いたします。費用は全額前金にてお願いさせていただいております。お客様からのご入金が確認できましたら、正式にご注文確定とさせていただきます。
作品のお引き渡し方法
美術品として郵送、直接お伺いして手渡しの両方に対応しております。事前にご希望をお知らせください。尚、送料や直接お伺いする際の交通費、宿泊費等はお客様負担でお願いさせていただいております。あらかじめご了承ください。
作品のご見学
ご注文確定前に、実際に作品をご覧いただくことは可能です。ただし、時期によってはお受けできない場合もございますので、まずはやり取りをさせていただいている担当者にご相談ください。
作品の保証
ご注文確定以降に当方の都合により納品不可能となった場合、全額返金いたします。
ご注文後のキャンセル
ご注文確定後のキャンセルはお受けする事ができません。あらかじめご了承ください。

国外対応について

国外からのご注文
国外からのご注文も受け付けております。お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。尚、対応言語は日本語、英語のみとさせていただいております。あらかじめご了承ください。
輸出入手続き
作品の輸出手続きは当方にて行わせていただきますが、輸入手続きにつきましてはお客様ご自身にて行っていただきますようお願いいたします。尚、双方が正常に手続きを完了していても、何らかの理由により税関で作品の受け入れを拒否されてしまう場合がございます。その場合に生じた損害に関しては、当方は一切の責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。
お引き渡し方法
美術品として郵送、直接お伺いして手渡しの両方に対応しております。事前にご希望をお知らせください。尚、送料や直接お伺いする際の交通費、宿泊費等はお客様負担でお願いさせていただいております。あらかじめご了承ください。