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漆芸家 小椋範彦 Vol.2 伝統は創造する

 
小椋範彦
Norihiko Ogura
 

1958年岡山県生まれ。1983年東京藝術大学卒業制作サロン・ド・プランタン受賞。1985年~98年の間、重要無形文化財保持者、田口喜国のもとで制作助手を務める。2011年紫綬褒章受章。2012年第18回MOA岡田茂吉賞展MOA美術館賞受賞。他受賞作品多数。東京藝術大学美術学部工芸科漆芸教授、中国北京工業大学芸術設計学院客員教授、日本工芸会理事、日本文化財漆協会常任理事。現在も国内外の展覧会に作品を出品し、高い評価を得ている。

独創の技と、伝統の継承と

日本全国、各地に漆芸文化が生まれ、その土地ならではの伝統の意匠、技法が受け継がれ、今も精緻な作品が作られている。しかし、小椋はただ先人の模倣をすることを自ら戒める。 「自分の作品が誰かに似ている。そう思った瞬間があったら、直ちに制作を中断します。常にオリジナルであることを心掛けています。田口先生のところに13年いましたが、先生に似ているのは避けました。いいものを見て、技術力を身に付けることは必要です。今、昔の超絶技巧が注目されていますが精密だからいいというのではなく、一つの作品として全体を見ることも大切です」。 こう語る小椋は、誰も見たいことのない蒔絵を創出するために、さまざまな実験を繰り返し、近年、水彩画、油彩画のような絵画的表現を駆使した新たな蒔絵表現を研究、発表している。

蒔絵パネルという新たな領域

数えきれない技法が生まれ、試され、名品を生んできた蒔絵。その長い歴史の中で、小椋が初めて切り拓いた世界、それが蒔絵パネルだ。蒔絵の伝統的な技法に絵画的表現を加え、油彩や水彩画のような暈し、滲みを求めて完成させた新しい表現。「今まで誰もやったことのない手法なので、発色の仕方、色の重ね方、引っ掻き方など、そのすべてが実験からのスタートでした。水彩画的な質感を出すためにテレピン油や樟脳を漆に加え粘性を変え、絵画用の筆で描いています。展覧会で初めて作品を見たお客様に『これは銅版画ですか?』と聞かれました」。

小椋はさりげなく語るが、蒔絵パネルという技法を編み出すには想像を絶する苦難があったに違いない。漆芸の伝統の先に広がる新たなる領域。興味を持った地を実際に訪れ、そのとき感じた印象をもとに制作している作品の数々を見てみよう。

Civita di Bagnoregio

Civita di Bagnoregio
縦65 x 横117 cm
作品の舞台はローマ北部の町、チヴィタ・ディ・バニュレージョ。風雨に侵食され、いつか滅びる町と呼ばれている場所に行き、インスピレーションを得て描いた作品。漆を全面に塗り、風景の空以外の箇所にリジウムという錆びない銀粉を蒔き、ニードルのような針で引っ掻いて彩色。さらにペインティングナイフを使って漆を重ねて塗る、鋭利なメスで引っ掻くなど、油絵のような手法を用いて制作。研出蒔絵の手法をアレンジ、高蒔絵的な立体感のある仕上がりとなっている。

Monsanto

Monsanto
縦65 x 横117 cm
ポルトガル中部、標高約758m。巨大な岩々と共存する村、モンサント。大きな岩の下に家がある異様な風景に興味を持ち、現地を取材し描いた作品。巨岩の質感を表すために、厚さ2mmの鉛を貼って表現。巨岩の雰囲気、質感を出すためにマチエールを付けるなど、試行錯誤を繰り返したが、最終的には油絵的な表現で仕上げた。風景のイメージに合わせてその都度、技法を変え新たな表現に挑んでいる。

Monsanto

Koblenzへの道
縦16 x 横23cm
ライン川とモーゼル川が合流するドイツライン川西岸の街、コブレンツに行く途中で出会った風景。一眼レフで撮った写真のような遠近感のある表現を目指し、手前にピントが合って奥がボケているように仕上げた実験作。銀粉を均等にならないように蒔き、空の雰囲気をリアルに表現している。白っぽい新緑の木々、屋根の赤み、民家の壁に反射する光の描写に神経を注いだ作品。

卓越の技が創り上げる世界

漆黒という言葉がある。幾重もの闇が体積したかのような深く濃い黒。その漆黒と華麗な金の装飾の対比が蒔絵の魅力と言われるが、小椋の作品の世界はそれだけではない。時として春の光を感じさせるような輝きがあり、異国の風を感じさせる陽光の煌めきが凝縮されている作品もある。それは若き日に油彩に親しんだ感性の所産なのだろうか。乾漆、蒔絵、割貝の技法を駆使した作品には目をみはる。

乾漆割貝蒔絵百合花文飾箱

乾漆割貝蒔絵百合花文飾箱
縦12.3 × 横32 × 高さ15.5 cm
乾漆の技法で作られた飾箱。粘土で型を作り、麻布を漆で貼り重ね、型から外す。その後、さらに漆を塗って仕上げている。百合の花は厚さ0.08mmの白蝶貝。裏から色漆で彩色する伏彩色という技法を使った割貝技法で、細やかな貝の表情をつくり、花々の明暗を対比させて構成している。

乾漆割貝蒔絵飾箱「円環」

乾漆割貝蒔絵飾箱「円環」
径25 × 高さ13 cm
イタリア・フィレンツェの旅で見た椰子の葉をモチーフとする乾漆の飾り箱。椰子の葉は厚さ0.08mmの白蝶貝を使い、光の具合を見ながら細く切って並べていく。銀消しをという手法で、銀粉を二回重ねて蒔き、粉固めをした後、平滑に研いでいる。アクセントとして金粉を蒔いて微妙な色を加えるなど、繊細な技を施して仕上げている。

乾漆蒔絵合子「雨後」

乾漆蒔絵合子「雨後」
径24 × 高さ13.5 cm
梅雨の季節。雨上がりの午後。アジアンタムの小さな葉に水滴がきらめく様子を蒔絵の技法で描いた。遠近感を出すために、純金、青金、銀粉など、数種類の金銀粉を蒔き、平面でありながら奥行き感を表現している。水滴は厚さ3mmの夜光貝を小さく削って象嵌。日常の情景を乾漆技法で仕上げた作品。

漆芸を次の千年へ

小椋は漆芸の教育機関としては最古の歴史を有する東京藝術大学の教授として学生たちに漆芸の文化、技法を教えている。今の若者たちに伝えたいものは何か尋ねると「漆芸の作家を目指す限り、自分はプロフェッショナルになるという意識を常に持ち続けてほしい。表現力はもちろん、道具の使い方、手入れ方法も含め、すべての過程で、こだわりを持って作品と向かいあってほしいと思います」と答えた。

漆器の制作には、原型をつくる木地師、それに手を加える下地師、漆を塗る塗り師、さらに装飾を施す職人とそれぞれの工程において専門の職人がいるが、小椋はそのすべての工程を一人で行う。そこには自分にしか創造できない作品をつくる作家としての自負も、責任もあるのだろう。

日本人は日常の道具に用の美を見出し、掌にのる棗から建築まで漆で美しく加飾し、堅牢にし、次の時代に伝えてきた。しかし、今の生活空間は昔と違うし、美意識も違う。小椋は言葉を続ける。「今日の感覚を生かした作品を創っていけば新たな方向が必ず見つかる。千年前の漆芸が今も人々の心を惹きつけているのは、今日つくられた漆器が千年の命を持ち、未来の人々に驚きと感動を伝えることもできるという証だと思っています」。漆芸という日本の偉大な伝統、その継承と独創の技法の創出。小椋の作家活動の到達点は、まだまだ先にある。

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お問い合わせから意思確認までの流れ
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美術品として郵送、直接お伺いして手渡しの両方に対応しております。事前にご希望をお知らせください。送料や移動費等はお客様負担でお願いさせていただいております。

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お支払いからお引渡しまでの流れ
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