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茶道宗和流十八代 宇田川宗光 Vol.2
シェイカーの音が響く茶室

宇田川宗光
Sohko Udagawa
 

1974年東京生まれ。茶道宗和流十八代。 宗和流の流祖・金森宗和は飛騨高山の城主の嫡子であったが、京都に移り茶の湯を専らにする。「姫宗和」と呼ばれるその茶風は公家門跡に好まれ、野々村仁清を指導、春慶塗等の好みの茶道具を作ったことでも知られる。宗和流は二代目より加賀前田家に伝わるが、八代より世襲制を廃止、十四代が東京に移り、以後東京に伝わる。 宇田川宗光は十六代堀宗友に師事し宗和流茶道を学び、2015年に十八代を襲名。大徳寺・真珠庵の山田宗正和尚の下で得度し、寒鴉齋(かんあさい)の號を授かる。根津美術館顧問。好みの茶道具や茶室を作り、茶の湯の愉しさを伝えるべく精力的に活動。茶事を体験できる小間の立礼茶室「夜咄Sahan」を営む。

茶室とBar、その先に

「もともと、私はBarにあまり行った事がなかったんですね。それにカクテルが美味しいとも思えなかった。ところが、浜崎さんの作るカクテルに出逢って、初めて美味しいと思えたんです」。そう語る宇田川が、どのようにして一見相容れない、異なる世界と感じられる「茶室×Bar」という構想に辿りついたのだろうか。

羊歯と熨斗の見事な蒔絵が施された提箪笥

羊歯と熨斗の見事な蒔絵が施された提箪笥。ケンドン式の蓋を開けると、整然と並んだシェイカーに蝋燭灯りが反射し、しっとりとした光りを放つ。

「お茶事に浜崎さんをお招きした際に、浜崎さんは作法を全く知らなかったのですが、お茶の世界にかなっている動きをして下さったんですね。そして、今度は浜崎さんのBarに伺った際には、カンパリのストレートをシェイカーでふったものを出して下さり、空気の入り方で薄茶の味も変わりましたね、とおっしゃったんです」。と、宇田川はワクワクの種を発見した少年のように当時を語った。

「浜崎さんのBarでは、床掃除はモップではなく雑巾を使い磨きあげます。這いつくばって手で確かめろという徹底した掃除の仕方なんです。これは、茶室の掃除とも似ています。それに、それぞれバーテンダーは氷の形から組み方など細部に渡って拘りや作法があり、修行したお店によってやり方が違う、これはお茶の流儀と同じだと感じたんです」。海外からの輸入品であったお茶もカクテルも、感受性豊かで研究熱心な日本人が、その動きに拘り精神性を込め、流儀にまで昇華してしまったというのだ。

振る和装のバーテンダー

さらに、宇田川が発見したお茶室とBarの見事な親和性の話は続く。「都会のオフィス街の中にあっても、Barの重い扉を開けると別世界が広がっています。この演出もお茶室に似ているんですね。それに、普通のサービスは、少し乱暴な言い方になりますが、お客様はお金を払うことによって、一方的にサービスを受け取るものになってしまっているのですが、お茶席やBarでは、亭主やバーテンダーだけでなく、お客さまもマナーを知り、会話を学び、気遣いをして、お互いに良い雰囲気を創っていくものなんです」。こうして確信を得た宇田川は、お茶で研ぎすまされた空間でBarをやってみようという構想に辿り着き、浜崎は夜咄Sahanでも、シェイカーを振る和装のバーテンダーとなった。

かの人を想い、そして、夜咄で出逢うカクテル

「上にのった黒い粒は何だと思いますか?」と聞かれ、蝋燭灯りの陰翳に白く浮き立った美しいカクテル「雪真珠」をゆっくりと味わう。仄かな品の良い甘みに、香ばしいような深みある塩味が伝わり、かつて味わった事のない体験に、思わず、何、これ?と声が洩れてしまう。黒い粒の正体は、真珠庵の山田和尚が自ら丹精込めて作った唐納豆(大徳寺納豆)を細かく刻んだものであった。「雪真珠」は、夜咄Sahanと縁の深い大徳寺真珠菴、そして一休禅師への想いを込めて、宇田川と浜崎が生み出したカクテルである。

カクテル雪真珠
カクテル雪真珠

カクテル 雪真珠 (ゆきしんじゅ)
中国臨済宗の禅僧、楊岐方会(992―1049)が、雪の夜に楊岐山の破れ寺で修業をしてる際、障子もない部屋の中に舞い込んできた雪が床一面に積もり、月明りに照らされて真珠のように輝いているという情景を詠んだ漢詩「楊岐乍住屋壁疎、満床皆敷雪真珠」にちなんで、真珠菴の庵号を一休禅師が名付けた。白い水面に浮かぶシェイクの氷と散らされた唐納豆を雪真珠の景色に見立てたカクテルは、その真白の美しさと、かつて体験した事のない驚きの味わいで古の世界へと誘う。

カクテル 遅櫻
カクテル 遅櫻

夜咄Sahanでしか出逢う事のできない個性的で魅力的なカクテルは、全てにストーリーがあり、そのストーリーを味わいながら読み解いていくという面白さがある。これは、お茶道具に名前があり、それらを取り合わせて設えたお茶席の趣向を客人が読み解いていくのと似ている。「お茶もカクテルもコミュニケーションのツールだと思うんですね。飲み物があって会話が繋がっていきます。お茶の世界にある伝統的なもの、和歌やお茶道具の名前、そういったものから得た発想でカクテルも作っています。和の食材でカクテルを作ってみたり、茶入の名前を使ってみたり、そうやって愉しんでいただける事を考えるのが好きなんです」。

カクテル 遅櫻
カクテル 遅櫻
カクテル 遅櫻

カクテル 遅櫻 (おそざくら)
足利義政が天下三肩衝の一つ、茶入「初花」よりも素晴らしいとして、金葉集の和歌「夏山の青葉まじりの遅桜初花よりもめづらしきかな」(訳:春の満開の桜も素晴らしいが、夏になって青葉にまじって咲く遅咲きの桜は更に清新で素晴らしい。)にちなんで、茶入「遅櫻」を名付けた。カシスとレモンのさっぱりした味わいと、薄茶の薫りが調和した「愛(め)ずらしい」カクテル。

架け橋を目指して

床 題霊山徹翁和尚示栄衒徒法語 山田宗正筆

床 題霊山徹翁和尚示栄衒徒法語 山田宗正筆
李下従来不正冠 奔馳世上豈諛官
江山風月我茶飯 自咲一生吟嘯寒
右一休禅師題 徹翁和尚法語 真珠宗正

迎える側、迎えられる側の双方が思いあう心をもって、共に創り上げていく時間と空間が、茶室そしてBarにはある。一見、異なるように思える世界は既成概念を取り払ってしまえば、実は多くの親和性を見つける事ができるのかもしれない。境界線を超え、自由に行き来できる架け橋になれたら、世界はどれだけ拡がるだろうか。

「愉しいお茶を体験して欲しい、でも、お茶をされた事がない方はとっかかりもないし、お茶席は堅苦しいと思われてしまっている。それなら、お酒が飲めるBarという場所なら、もっと気軽に来て頂けるのではないか?お酒を飲みにBarであるsahanにいらしたお客様が、お茶に興味を持ってくれるかもしれません。お茶事をしに茶室であるsahanにいらしたお客様が、今度はお酒に興味を持ってくれるかもしれません。お茶とBarが、お互いの入り口になり、お互いの架け橋になって、お客様がどちらの世界も愉しめるようになったら、素敵だと思いませんか」 。

カクテル 燕子花

カクテル 燕子花(かきつばた)
燕子花は初夏の水辺に咲く青紫の花弁と緑の葉の景色が美しい花。伊勢物語第9段の東下りで、燕子花を頭文字に詠んだ古歌が有名。尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」など、様々な作品の題材に使われている事でも知られる。燕子花の美しい青紫色に、光琳の金屏風を彷彿させる金箔が散りばめられた遊び心の溢れる芸術的なカクテル。このカクテルには他にも秘密があるが、これは夜咄sahanに来てのお愉しみ。仄かな甘味と酸味+ハーブの清涼感を感じながら飲み進んでいくと、柔らかくも野趣溢れる複雑な味わいが口いっぱいに拡がる。


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夜咄sahan
紹介制
要事前予約
住所:東京都新宿区上落合某所
http://yobanashi-sahan.jp/
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